あなたと月を見られたら。
昔の龍聖はカッコいいけど冷血漢で、傲慢で、自分さえよければそれでいい、っていう考えを持ってる人だった。そこが私は大嫌いで、どうしても許せなかった。
だからこそ
愛のない男はお断り!
次は優しい人と恋をする!
そう決めていたのに…、再会した龍聖はあの頃の龍聖とは全く違う人だった。
龍聖は空を見上げてのんびりしたり、人のために腕をふるって料理を作ったり、こんな風に柔らかな顔をして笑う人では決してなかった。だから、、、私は龍聖を信じられずにいたんだ。
こんな風に優しいのは今だけなんじゃないか。
そんなに簡単に人間の本質が変わるはずがないもの。絶対に龍聖は変わらない。
龍聖は絶対に愛のない男。
騙されちゃいけない。
ハマって傷ついてバカを見るのは自分なんだから、用心しなきゃいけない。
ずっとそう自分に言い聞かせて、心の扉に鍵をかけてた。龍聖が私の中に入ってこれないように。
なのに……
「何にもなくなった時にさ?美月に言われた言葉を思い出してカフェを開こう、って思ったんだよ。」
「……え??」
「初めて出会った時、居酒屋で美月が言ってただろ?『コーヒー1杯で人を幸せにできる職業って素敵です。』って。よくよく考えるとさ?俺は誰かを幸せにしたことなんて、きっと一度だってなかったんだよ。だから今度は誰かを幸せにできる仕事がしたい、って思っちゃったんだよね。」
そう言って照れたように笑う龍聖を見てるとわからなくなる。心の扉が壊れそうで、固く閉ざされた扉がこの笑顔で溶かされてしまいそうで、怖くなる。