あなたと月を見られたら。
「そっか……。」
弱虫な私はそれしか言えなかった。大変だったね、とか、頑張ったんだね、とか、言いたいことは山ほどあったはずなのに、口に出したのは毒にも薬にもならないそんな一言。
口にしたら壊れてしまう。
そんな予感を感じて素直な言葉を言うことができなかった。
上司にハメられた悔しさ。そんな時、誰も味方になってくれなかった事実に直面した時の龍聖のツラさを思うと胸が痛んだ。私が龍聖の立場だったら絶対に耐えきれなかったと思う。
だけど…
そんなことがあっても腐らずに前を見て、新たな生き方を探した龍聖を素敵だと思った。
過去の自分を「嫌な奴だった」と言い、過去の事件を気にもせず平気な顔して笑う龍聖をカッコいいと素直に思った。
だからこそ怖かった。
自分の気持ちを素直に口に出した瞬間、自分で自分の気持ちを認めてしまいそうで怖かった。
「まぁ、いろいろあったけど今となってはいい思い出だよ。」
そう言って笑う彼を信用してしまいそうで怖かった。許してしまいそうで、流されてしまいそうで、またどうしようもなく彼に溺れてしまいそうで…私はうつむくことしかできなかった。