月の綺麗な夜に
夕焼けが空を焼く午後の道を、知香と二人で肩を並べながら歩く。
さっきの担任の不快感が止まらない私はずっと愚痴を吐いていた。
「ほんまに気持ち悪いわ、あいつ。なんであんなニヤつくねん。しかも全身を見る意味がわからんし」
本当にイライラする。
あのニヤつきも、視線も、話の内容も。何もかもが不快感を刺激する。
「まぁまぁ!美月ちゃんが綺麗すぎるから先生もおもわず全身をみちゃうんやって!」
「美しさは罪やわ〜」と、知香が無邪気に笑いながら意味のわからない事を言った。
私が美しいって。そんな事を言う人の美的センスは間違いなく最低だろう。
「はいはい。その冗談聞き飽きたし」
はぁ〜、と深くため息を吐くと憂鬱な気持ちが少しだけ薄れる気がした。
「あんね、何べんも言うけど冗談やないって!」
横で私を見上げながら、「それと、ため息すると幸せが逃げるからやめなさい!」と、真面目な顔で続ける。
オレンジ色の夕日が知香の顔を染めて、魅力は息を呑んでしまう程に増した。
私はいつだって知香みたいになれたらいいのにと思って生きてきた。
知香の全てが私の理想で、憧れで、それでいて嫉妬の対象だ。
なんとも醜く歪んだ私の思考回路。
溶けて、蒸発して、消滅してしまえばいい。