続・祈りのいらない世界で

15・感じる事の出来ない苦しみ

「うぇっ…!!げほげほっ!!!!」



リビングから聞こえる教育テレビの陽気な音楽。



それを聞きながら、キヨはキッチンで吐いていた。


つわりに苦しみながらも、台所で夕食の支度をしているキヨ。



最近はつわりの他に頭痛にも襲われ、キヨは精神的に参っていた。




「うっ…!!げほっ!!!!」



キヨの苦しそうな声を聞きつけたフウが、トテトテとキッチンにやって来た。


フウはキヨのエプロンのリボンを引っ張る。




「……きよ。いたい、いたい?」

「ん?違うよ。心配させちゃってごめんね、フウ」



キヨは屈んでフウの頭を撫でる。




「大丈夫だよ。ありがとう。…でも台所は危ないから、テレビ観てて?」

「……あい」



フウはコクッと頷くと、再びトテトテとリビングに戻っていった。



最近、少しずつ会話が成立するようになってきたフウに微笑みながら、キヨは晩御飯作りを再開した。



フウはまだペラペラとは喋れないが、言われてる事は理解出来るようになったらしい。


ちゃんと成長しているフウを、キヨは自分の息子のように思っていた。




「たでーま」



夕食が出来上がる頃、いつもの低い声と共にイノリが帰ってきた。



「イノリ♪おかえりなさ……」



玄関に駆けて行こうとしたキヨは、いきなり目の前が真っ白になりその場に倒れた。


家には食器が割れる音が響く。



「あ?美月!?」



イノリがキッチンに向かうと、うずくまっているキヨがいた。

キヨの周りには硝子の破片が散乱している。
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