不要なモノは愛
見事な包丁さばきは一人暮らしで身に付けた技術らしい。


「でも、松野さん。実家近いのに何で一人暮らししているのですか?」


会社に通える距離に実家がある一樹には、一人暮らしをするという選択肢は全然なかった。自分が考えないことをするのが不思議なのだろう。

「兄は俺のことが嫌いなんです」…聖斗くんから遠ざかるためだったのかな。


「理由は覚えてないな」


意外にも曖昧な返事だ。理由なんてなかったのかな。

10年も前のことにしても特別な理由があれば覚えているだろうに。


「あ、分かりました!」


箸を並べていた一樹は持っていた箸を松野兄にビシッと向けて、ニヤリと笑う。楽しい理由が見つかったかのようだ。

こういう時の一樹の顔はかわいい。やんちゃな子どもの頃と変わらない。


「なんだと言うんだよ?」


「ズバリ、女を連れ込むためでしょう!」


「は?あほか」


呆れ顔で冷たく言われて、一樹は肩を落とした。一樹が出した理由には呆れたが。
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