欲しがりなくちびる
最近、仕事帰りにカフェに立ち寄るのが朔の習慣になっていた。
浩輔がいるマンションに仕事でくたびれたままの状態で帰宅するのは、彼がするすると音もなく忍び込むようにして無防備になった心の隙間に入り込んでくるような気がして恐かった。
ある程度の緊張感を持って玄関んも扉を開けない、浩輔の顔を見ればすぐにでもその胸に抱き締めて欲しくなる。それは、子供の頃に求めた母親の残像にも似ているようで、無条件に受け入れてくれる、確かな人の温もりを探しているのに近い。
自分はいつからこんなに弱い人間になったのだろうと考えてみる。これまでは、例え恋人であろうと赤の他人だとはっきり線引きをしてきた。お互い他人同士なのだから理解できない部分があるのは当然だし、そのことを追及しようとか、相手の全てが欲しいと思うことはなかった。
けれども、相手が浩輔となった途端それも違ってくる。
何を考えているか分からないのは不安だし、悔しいから自分の方から何を考えているかなんて教えたくない。でも本当は、今でも浩輔と感じるものが同じなのかを確かめたいし、浩輔の明日も明後日も手に入れたい。
独占欲のようなものが胸の内を蠢いてすっかり自分を持て余すようになっていた。こんなふうになってしまった自分を、何より朔自身が一番信じられなかった。
いつか自分の中で何かが壊れてしまわないように、相変わらず無愛想に迎える浩輔の顔を動揺することなく見つめ返すために、心に薄い膜を張って朔は自分を守っている。
浩輔がいるマンションに仕事でくたびれたままの状態で帰宅するのは、彼がするすると音もなく忍び込むようにして無防備になった心の隙間に入り込んでくるような気がして恐かった。
ある程度の緊張感を持って玄関んも扉を開けない、浩輔の顔を見ればすぐにでもその胸に抱き締めて欲しくなる。それは、子供の頃に求めた母親の残像にも似ているようで、無条件に受け入れてくれる、確かな人の温もりを探しているのに近い。
自分はいつからこんなに弱い人間になったのだろうと考えてみる。これまでは、例え恋人であろうと赤の他人だとはっきり線引きをしてきた。お互い他人同士なのだから理解できない部分があるのは当然だし、そのことを追及しようとか、相手の全てが欲しいと思うことはなかった。
けれども、相手が浩輔となった途端それも違ってくる。
何を考えているか分からないのは不安だし、悔しいから自分の方から何を考えているかなんて教えたくない。でも本当は、今でも浩輔と感じるものが同じなのかを確かめたいし、浩輔の明日も明後日も手に入れたい。
独占欲のようなものが胸の内を蠢いてすっかり自分を持て余すようになっていた。こんなふうになってしまった自分を、何より朔自身が一番信じられなかった。
いつか自分の中で何かが壊れてしまわないように、相変わらず無愛想に迎える浩輔の顔を動揺することなく見つめ返すために、心に薄い膜を張って朔は自分を守っている。