欲しがりなくちびる
時間にしたら、ものの30秒もなかったかもしれない。やがて二人が身体を離したと同時に、朔は元来た道へと走り出していた。
走って走って商店街を目指すと、例のカフェバーに飛び込む。冬とはいえだいぶ走ったきた為冷たいカフェラテを注文した割には喉はちっとも乾いてなくて、ストローでちょびちょびと吸うグラスの中身はいっこうに減らなかった。
心の拠り処の浩輔のはずなのに、いつしかそうではなくなっていた。一緒にいると穏やかで落ち付けて心が和む。けれども最近は、訳のわからない疑心暗鬼に襲われてひとりで一喜一憂してしまう。
素直に気持ちを伝えれば、もうこんな思いをしなくて済むのだろうか。
伝えてしまえば、二人は何を得て、何を失うのだろう。
新しいものを得ることも、これまで持っていたものを失うことも朔は求めてはいない。
ただ、振り向いたらいつもそこにいて欲しいというたった一つの願いは、浩輔にしてみれば欲張りなことのだろうか。もうずっと昔から、ただそれだけをひたすら求めていたように思う。
結局、今の朔にとっては帰る場所は浩輔のマンションしかない。やっとの思いで気持ちを切り替えて意気込んだというのに、彼はすっかり部屋着姿で缶ビール片手にテレビを見ていた。髪はまだ濡れたままで、毛先に小さな雫ができている。それが落ちると浩輔の首筋を伝わって、鎖骨の辺りで止まった。
「どうした?」
浩輔が怪訝な顔してこちらを見るから、思わず朔の眉間に力が入る。
「何が?」
「さっきからそこ突っ立ったままだけど。いつも俺の顔見たら、すぐにメイク落しに行くだろ」
浩輔は缶ビールを持った方の人差指で廊下を指差す。
「ああ! そうだったよね。疲れてぼんやりしちゃってた。今日はシャワー浴びて早めに休むね」
浩輔の声も自分の声も、なぜか耳に留まらない。朔はどうしたらいいのか分からなくなって、逃げ出すように踵を返す。ドアノブへと、あと一、二歩のところで浩輔に後手を取られて、そのまま彼の腕の中に引き寄せられてしまう。
走って走って商店街を目指すと、例のカフェバーに飛び込む。冬とはいえだいぶ走ったきた為冷たいカフェラテを注文した割には喉はちっとも乾いてなくて、ストローでちょびちょびと吸うグラスの中身はいっこうに減らなかった。
心の拠り処の浩輔のはずなのに、いつしかそうではなくなっていた。一緒にいると穏やかで落ち付けて心が和む。けれども最近は、訳のわからない疑心暗鬼に襲われてひとりで一喜一憂してしまう。
素直に気持ちを伝えれば、もうこんな思いをしなくて済むのだろうか。
伝えてしまえば、二人は何を得て、何を失うのだろう。
新しいものを得ることも、これまで持っていたものを失うことも朔は求めてはいない。
ただ、振り向いたらいつもそこにいて欲しいというたった一つの願いは、浩輔にしてみれば欲張りなことのだろうか。もうずっと昔から、ただそれだけをひたすら求めていたように思う。
結局、今の朔にとっては帰る場所は浩輔のマンションしかない。やっとの思いで気持ちを切り替えて意気込んだというのに、彼はすっかり部屋着姿で缶ビール片手にテレビを見ていた。髪はまだ濡れたままで、毛先に小さな雫ができている。それが落ちると浩輔の首筋を伝わって、鎖骨の辺りで止まった。
「どうした?」
浩輔が怪訝な顔してこちらを見るから、思わず朔の眉間に力が入る。
「何が?」
「さっきからそこ突っ立ったままだけど。いつも俺の顔見たら、すぐにメイク落しに行くだろ」
浩輔は缶ビールを持った方の人差指で廊下を指差す。
「ああ! そうだったよね。疲れてぼんやりしちゃってた。今日はシャワー浴びて早めに休むね」
浩輔の声も自分の声も、なぜか耳に留まらない。朔はどうしたらいいのか分からなくなって、逃げ出すように踵を返す。ドアノブへと、あと一、二歩のところで浩輔に後手を取られて、そのまま彼の腕の中に引き寄せられてしまう。