欲しがりなくちびる
「どうした? 何かあったのか?」

首筋に浩輔の柔らかな息遣いを感じる。それだけで、勝手に身体が期待してしまう。

「やだな。何もないって」

「何もって……。声、震えてる」

浩輔に抱き寄せられて、朔の心臓は狂ってしまったように早鐘を鳴らしている。それが彼にも伝わっているのだと思うと、脈動はますます速くなっていく。

「――朔」

耳元でそっと呼ばれ、首筋に押し当てられた浩輔の柔らかい唇の感触に思わず目を閉じる。そこから伝わる熱のせいで、朔の身体は砂糖菓子のように脆く溶けてしまいそうになる。

「――……いや」

誘惑を思い切るように、朔はぎゅっと固く瞼を閉じる。浩輔の胸を押し遣って二人の間に隙間を作れば、彼が心配そうに覗き込んでくる。 

「朔……? おまえ、泣いて……?」

「……違う。コンタクトがずれて、眼が沁みるだけ」

そう言って顔を背ける朔の顎を捉まえて、浩輔が上を向かせる。見つめてくる視線が居心地悪くて、朔は思わず眼を逸らす。

「今日のおまえ裸眼じゃん。見れば分かんだよ」

いつもと違う朔に気付いた浩輔は、まるで心の内を見透かすかのように顔を覗き込んでくる。その真剣な眼差しは、朔を後ろめたい気持ちにさせるだけではなくて同時に混乱させる。 


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