欲しがりなくちびる
「私、最近この街に越してきたんです。だから知ってる顔を見掛けたら嬉しくなって大嶋君を呼び止めたんです。……あ! 自己紹介がまだでしたよね。私、大嶋君と大学が一緒だった片庭結子って言います」

彼女は話しの途中で思い出したようにぺこりと頭を下げると肩を竦める。ほとんど一方的に朔を連れてきて、うっかりそのまま自分のペースで話していたことに気付いたらしい。マイペースではあるが、嫌味が感じはしなかった。

「で、で? 大嶋君」

促すように目配せして朔を見る結子に、浩輔は呆れ気味に口を開く。

「俺の義理の姉の、朔」

‘義理の姉’と紹介されて、朔は、そういえばそうだったと思い出したように頷いていた。本当は、浩輔がどう紹介するのかと期待していたけれど、そうだ、これが二人に相応しい呼び名だったのだと改めて認識する。けれども、それが浩輔から見た二人の関係なのだと思ったら、どうしようもなく泣きたい気分になってしまう。 

あの日、遠くから見たときの結子は幼い感じがしたが正面から見るとそう歳が違わないのが分かり、実際は同い年だった。モデルのように整っている顔は化粧っ気がないせいか、どこか中性的な雰囲気を醸し出している。

やはり、浩輔とキスをしていた女性は結子で間違いないのだと、隣の彼女を見て思う。初めて垣間見た浩輔の女性関係は何ともリアルなようでいて何となく現実離れしているようにも思えるのは、結子の性別を超えた存在感のせいなのだろうか。

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