欲しがりなくちびる
「朔」

呼ばれて顔を上げると浩輔の顔がすぐ傍にあって、二人の唇はそのまま重なった。

「どうして最近俺の部屋に来ない?」

唐突に言われて、朔には上手い言い訳が思い付かなかった。

「もしかして、見たのか? あれ」

「……あれって?」

「そうか。嫉妬か」

このタイミングでは、さすがに浩輔も気付いたのだろう。ここは上手く誤魔化したいところだが、意地悪そうに眇めた目をして溜息を吐く浩輔に、自分の顔が赤くなっていくのをどうしようもできなかった。

「ち、違っ!!」

全力で否定してみせたら今度は苦笑されて、朔は無性に泣きたくなった。

「違ってもいいよ。ただ、おまえを抱きたいだけ」

浩輔を見上げると、とても穏やかな、小さな微笑を湛えていた。 

彼はこういうとき、甘く唆すような声色になる。彼が意図してそうしているのかは分からないが、朔はまるで催眠術にでも掛かってしまったかのように、うんとしか頷けなくなる。

都合のいい家族である二人は、身体を重ねることで本物のきょうだいに近付こうとするのだろうか。

久し振りに感じる肌の匂いに、その滑らかさに、骨ばったその指で愛されるのだと思うと、朔の身体はすぐに濡れ始める。

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