欲しがりなくちびる
「キャ――ッ!?」

ふいに肩を叩かれ、朔は思わず悲鳴を上げる。ハリウッド映画が流れているテレビ画面でもちょうど、追い詰められた主人公が同じように恐怖に悲鳴を上げて、マンションの一室はちょっとしたパニックになる。

徐に、暗くしていた部屋に灯りが点いて周囲を見渡せば、脅かした張本人である浩輔が呆れ顔で朔を見下ろしている。

「馬鹿か、おまえ。いったいどこの寂しい女がイブに部屋暗くしてホラーなんて観てんだよ」

浩輔はテーブルの上にあるDVDのケースを手に取ってタイトルを確認すると、今度は裏面に返してざっと視線を走らせる。
 
「失礼な言い方しないでよね。ちゃんとケーキもシャンパンも用意してるし! そういう浩輔だって帰り早いじゃん。ダサっ」

朔は、浩輔からDVDのケースを奪い取るとぷいと顔を背ける。

「男だけで飲んでるのも侘しくなって、早めに切り上げてきたんだよ」

けれども、浩輔の予想外の言葉に、思わず膨らました頬のまま振り返る。

「えっ? 結子さんはどうしたのよ?」

「どうしてそこで片庭が出てくんだよ」

「だって……。付き合ってるんじゃないの……?」

ちらりと浩輔を横目で見ると、彼は何の躊躇いもなくまじまじと朔を凝視した後、あからさまに大きな溜息を吐く。

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