欲しがりなくちびる
「今気付いたんだけど、この部屋殺風景だよね。生活感がないというより、引っ越してきたばかりみたいな」
 
朔の問い掛けに、浩輔は「ああ」と頷く。

「今まで電化製品とか家具付きのとこしか住んでなかったから、色々揃ってないんだよ」

「確か、引っ越して半年位は経ってるよね。この前お母さんに電話した時そう言ってた」

「別に今まで不自由だと感じたこともなかったし、ほとんど寝に帰ってきているようなもんだからな」

「でも。冷蔵庫もないし食事はどうしてんの? 確か浩輔、料理する人だったよね」

大学時代に、何度か浩輔のアパートでご馳走になっている。その日に依って、冷蔵庫の有りものでパパっと作る名もない料理だったり、手が込んだものだったりしたけれど、気分転換になるから自炊していると話していた事を覚えている。 

「冷蔵庫はワインセラーを代わりに使ってる。社会人になってからはほとんど外食だし。朝はだいたいスタバで、昼は社食とか出先で適当なもん食って、夜は夜で同僚と居酒屋行ったり、牛丼食ったり」
 
「さすがに学生時代とは違うか……。浩輔の会社お給料いいしね」

浩輔は、大手飲料水メーカーに勤務している。新卒で福岡に配属され、昨年本社があるお膝元に戻ってきた。

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