欲しがりなくちびる
電気ケトルのお湯が湧いた音がして、朔の前に差し出されたのは最近お気に入りの芋焼酎のお湯割り。少し濃いくらいが丁度いい。

「ありがとう、浩輔」

まるで体液のように喉を通って染み渡っていくそれに、朔はほぅっと両手で包んだカップの中身をぼんやり見つめる。揺れる水面は、強張っていた心も揺らいでいくようだ。

「なんかごめんね。最近、浩輔に頼ってばっかりだよね」

「急にどうした? 今に始まったことじゃないだろ」

ふ、と溜息交じりに微笑む浩輔がやけに色っぽくて、朔の心臓がとくんとひとつ小さく高鳴る。浩輔は最近なぜか優しい。目に見えてどうという訳ではないが、何かが確かに違う。

「そんなヨレヨレなのに、メイクはしっかりしているおまえは偉いよ」

浩輔はお湯割りではなく缶ビールのプルトップを開けるとそのまま口をつけて、ごくごくと美味しそうに喉を鳴らす。

「だって、それも仕事のうちだから。メイクしなくていいなら、私だってしたくないよ。面倒だし、煩わしいし」

朔も釣られてぐびぐびと焼酎を煽る。

「だから休日はすっぴんなのか」

「厚化粧ばかりしてると、本当の自分が分かんなくなるでしょ」

「そこまで考えてたのか?」

それまでいつも通りの無表情だった浩輔が急に怪訝な顔して小首を捻ったものだから、朔は思わずうっと言葉に詰まる。

「……まぁ、あまり深くは考えてなかったけど」

肩を竦めれば、浩輔はふいに表情を和らげた。

「メイクして着飾った朔も、すっぴんの朔も、どっちもおまえには変わりないよ」

そう言っていつになく見つめてくる浩輔から、目を逸らすことができない。最近の彼はやっぱりおかしい。浩輔が一瞬だけ、本当に優しい眼差しを寄こした気がしたが、それは朔がそう望んでいるから、そう見えただけなのかもしれない。今日は少し酔ってしまったようだ。

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