欲しがりなくちびる
どうやら、果てを向えたままそのまま眠ってしまったらしかった。

朔は、彼を起こさないようにそろそろとベッドから抜け出してリビングへ繋がるドアを開く。暗がりの中、すっかり慣れた足取りでバスルームへ向かい、正面の鏡に映った自分の顔に唖然とした。

「メイク落してある……」

浩輔がメイク落としシートで綺麗にしてくれたのだろう。つけ睫毛まで丁寧に剥がされていた。朔は、途端にどうしようもない羞恥に襲われて、かぁーっと顔を赤らめる。疲れ過ぎた身体に与えられた浩輔の指先がいくら気持ち良かったからといって、一人だけいってそのまま眠ってしまうなんて、男である浩輔には蛇の生殺しのようなものだったに違いない。

頬を触ってみるとしっとりしているあたり、化粧水や美容液なんかまで使ってくれたのだろう。

ふいに置時計の秒針の音が耳に入ってきて、見るとまだ6時前だった。

シャワーを浴び終え、浩輔を起こさないようにベッドに潜り込んだのに、僅かに軋んだスプリングのせいで彼は薄く瞼を開く。


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