欲しがりなくちびる
吐息交じりに笑った結子だったが、思い出したように再び口を開く。

「この絵、背中の下辺りに小さな黒子があるでしょう? だから実在のモデルがいるんじゃないかって、当時そんな噂が流れて。大嶋君は多くを言う人じゃないから、結局、真相はうやむやにされたままなんですけどね」

そう言ってちらりと朔を見るとくすりと含み笑いをする。その意図に気付いて、朔は結子から視線を逸らすことができなくなった。

「朔さん。私の背中、見てみます?」

読み通りの結子の言葉に泣きたくなった。何故こんな意地悪をされなくてはならないのかと、今にもここから逃げ出したくなる。

「なんてね、冗談ですよ。絵の中の彼女はとても中性的で現実味がないから、黒子を付けることで生身の人間臭さみたいなものを持たせようとしたんだと思います。大嶋君は、彼女の背中に妖精のような羽根を描こうか随分悩んで、付けない代わりに背後の空間をわざと空けたんです」

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