欲しがりなくちびる
身心ともにぐったりして覚束ない足取りで帰宅すると、浩輔はシャワーを浴びたばかりなのか、まだ髪が濡れたままの姿で雑誌を捲っていた。

朔は、彼の後ろ姿を確認するとただいまを言って、バスルームへ向かう。

あの少女とは違う、自分の顔。

メイクを落とせば、鏡の中には実年齢より幼く見える童顔が映り込んだ。

浩輔を独り占めしたいけれど、それが恋だとは言い切れない。甘やかに引き寄せられる感覚を恋だと思っても、彼は高校の頃にはもうそういう雰囲気を纏っていた。

だから、朔は分からなくなる。

「どうした、朔?」

こうやって些細な変化に気付いてくれるのは、今も昔も変わらない。浩輔のことも、自分自身のことも、分からないことが朔には多すぎる。

「こんなに濡らしてんのに、考え事するなんて余裕だな」

そう言って、ベッドの上で傲慢な笑みを浮かべる浩輔は堪らなく厭らしい。その男らしい顔にきゅんと子宮を疼かせてしまう朔もあの頃と変わっていない。


身体を重ねすぎたのかもしれない。そう思っても、浩輔に従順な体は与えられる快感に戦慄いて、彼を喜ばせることを忘れない。甘い責め苦に悶えれば、満足そうに微笑んで優しいキスをしてくれる。朔に初めての男を刻みつけた浩輔はきらりと卑猥に濡れた目をして、今も朔を翻弄してやまない。

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