欲しがりなくちびる
セールの忙しさも一段落ついて、賃貸情報を検索するのが半ば日課のようになっていた。浩輔との最初の約束では、最長でも半年と伝えていたし今月はついに最終月だ。

彼は、始めこそ早く部屋を見つけろと言ってきたけれど、いつしか、その言葉を耳にすることもなくなっていた。

2年という短い期間ではあったけれど家族として一緒に暮らした経緯もあって、浩輔との生活は居心地が良い。そう思っているのは自分だけかもしれないけれど、本当はずっとこのままここで一緒に暮らしていきたい。

けれども、そんなことでは浩輔はいつまで経っても恋人を作れないし、本当は作ってほしくはないけれど、朔がいることで彼の行動を何らかの形で制限しているのは否めない。

結子は、浩輔に告白するとわざわざ伝えてきた。

もう伝えたのだろうか。

浩輔は、一度は断ったとはいえ、二度目は分からない。

2ヶ月前、結子とは何もないと言った。朔が結子とのキス現場を目撃したことを知ってもそう言った。

あれから時は過ぎている。

浩輔の言葉を信じていればいいのだろうか。浩輔から出ていけと言われるまで、ここにいても、傍にいても構わないのだろうか。自分では決められないから、はっきりと彼の方から意思表示をしてほしい。

「いかがですか? 日当たりもいいですし、駅も近いですよ」

「うーん。そうなんですけど、お家賃がね……」

シフト休みに不動産会社を訪ねて条件に近い部屋をいくつか案内してもらったが、どうも決定打に欠ける。家賃を取るか日当たりを取るか、駅を取るかスーパーを取るか、いまいち決められない。

本当は、その理由を知っている。

家賃や日当たりの問題ではない。単に引っ越ししたくないからだ。

「検討してみます」

社交辞令を口にして、マンションの下で担当者と別れた。釈然としない。

「これからどうしようかな……」

朔はぽつりと呟いて、浩輔がいるマンションに帰るまえに買い出しすることにした。

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