欲しがりなくちびる
「今日はそれ飲んで寝ろよ。俺はソファで寝るから……って言いたいところだけど、このソファ、座り心地はいいけど、寝るには向いてないんだよな。一度転寝したらあちこち筋肉痛になって最悪だったし。だから俺はベッドで寝させてもらうけど、どうする? 一応ダブルだから二人でも問題ないけど」

浩輔は缶を持った方の手で器用にプルトップを開けると、ごくごくと喉の奥にビールを流し込んでいく。

「……彼女いないのにダブルベッド買ってんの?」

嚥下を繰り返す彼の喉仏の動き見ていた朔だったが、疑いの眼差しをちらりと浩輔に寄せる。すると彼は怪訝に目を眇めた。 

「いいだろ別に。てか、おまえさぁ。ここ俺んちなんですけど」

「――そうでした。ありがたくソファお借りします」

朔が首を竦めて借りてきた猫のようにしゅんと体を縮めれば、浩輔は思わず零れたみたいに白い歯を見せて笑った。

ビールを飲み終わるとそれぞれ寝る準備をして、浩輔は寝室へ、朔は借りたTシャツに着替えてソファに横になる。

身体を包みこむように設計されたソファは、座面を垂直に囲んでいるせいで確かに寝るにはスペースが足りず、それこそ猫のように身体を縮ませなくてはならなかった。

朔がベストポジションを探そうと寝返りを繰り返している最中、リビングの隣にある寝室の扉が開いた。浩輔がこちらへと歩み寄ってくるのが分かったが、寝室から漏れる照明のせいで逆光になり表情までは読み取れない。

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