欲しがりなくちびる
「やっぱ、そこで寝かせらんねぇから、こっちこいよ」

浩輔が朔からタオルケットを取り上げて先を促す。

あのソファでは暫く眠りに就けないだろうと判断した朔は、一応婚約者がいる身なんですけど、などと思いながらも素直に彼の後に続く。

たった数時間前にその婚約者の浮気現場を目撃したばかりだというのに、いくら弟とはいえ、操を立てようなんてどこまで自分は馬鹿なのだろうと、少し情けなくなる。

それでも朔は、自分だけは真っさらなままでいることに意味があるような気がしていた。

「……失礼します」

浩輔の反対側からそろそろとベッドに入り込むと、彼が隣で吹き出す。

「なに今の? 昭和初期の初夜みてーなセリフ」

舌が縺れそうな言葉を連ねながら、彼は未だくつくつ笑っている。

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