欲しがりなくちびる
「浩輔」

「ん?」

「私、いつまでここにいていいのかな……?」

浩輔の横顔を見つめれば、彼はふいに視線だけを私に寄こして、すぐにまた膝の上の雑誌へと戻した。

「朔が好きなだけいれば? おまえがいると楽しいし」

「……そっか」 

感情が読み取れない浩輔の横顔に小さく言って、温くなったカモミールをひとくち、口にする。

浩輔に好きなだけいていいと言われて嬉しいはずなのに、何故か心は晴れない。それどころか、もくもくと灰色の雲が胸にどんどん広がっていく。

‘楽しいから’なんて、友達みたいな理由が欲しかった訳じゃない。自分にだけ寄せる特別な気持ちを聞かせて欲しかった。

幼馴染でも姉でも、セフレでも同居人でも、二人の関係にちゃんとした呼び名を付けてほしい。けれども、納得できる呼び名でなくては受け入れたくはない。

そんなに頭が良いのに、どうして分からないの? 

分かっていながら、わざと言ってくれないの?

胸いっぱいに広がる甘いだけじゃないこの気持ちに自信がないから、せめて浩輔の事を少しくらい教えてほしい。そう思っても、自分だけが拘っているだけなんだと分かっている。

結子のまえで浩輔ははっきりと義理の姉弟だと口にしたのだ。

それこそが、二人の間に跨る見えない距離なのだとしたら、恋人として望んでいるのか家族がほしいのか、朔には自分の心に耳を傾ける時間がまだまだ必要な気がした。

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