欲しがりなくちびる
「朔……」

浩輔が呆れた口調で溜息を吐く。

もしかすると、いつまでも決定的な言葉を言わない朔に焦れているのだろう。

でも、朔はまだ言わずにいたかった。

もう少しだけ、浩輔と二人だけの甘い時間を過ごしていたい。

本当は、もう二人ではないけれど。

今思えば、どちらともなく避妊をしなくなったのは、言葉足らずな二人の意思確認みたいなものだったのかもしれない。

「朔の次の休み、久し振りに一緒に帰省するか」

それは、朔の父親と浩輔の母親が暮らす家だ。

「でも、二人とも私達の仲が悪いって思ってるから、一緒に帰ったら吃驚するんじゃないかな」

「だろうな。4人揃うのは俺らの大学卒業以来だから……6年振りか? やべぇな。親父さんの好物ってなんだったっけ?」

「んー。とりあえず、甘い物でいいんじゃないのー?」

気のない素振りで言うと、おしおきのように浩輔に後ろから羽交い絞めにされる。

それは、朔の体を気遣ってそっと腕を回しただけだったけれど、浩輔の腕の中にすっぽりと収まってしまう。女性としては身長が高い方ではあるが、こうして彼の腕に収まる度に自分が女であることを認識する。抱き締めるよりは、抱きしめられたい。

二人の間には相変わらず愛の言葉はないけれど、浩輔が呼ぶ朔の名前が、朔が呼ぶ浩輔の名前が、二人の何よりの証だと思っている。

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