欲しがりなくちびる
翌朝、朔が目覚めた時には浩輔はもう会社に出掛けた後だったが、代わりに朔の左手の薬指にはサイズがぴたりと合った一粒石のダイヤモンドの指輪できらりと輝いていた。

まったく……と、朔は思わず呟く。

浩輔はいつの間に用意していたのだろう。

そう思うものの、実際に浩輔が指にはめてくれた瞬間を見た訳ではないから、これは彼からの贈り物ではないかもしれない。なんて、どんなときも言葉が足りない浩輔に皮肉めいたことを思ってみたけれど、こんなにも朔好みのタイプのものを探し当てることができるのも、彼女の指が一番綺麗に見える立爪の高さを知っているのも、やっぱり浩輔しかいない。

朔は、ベッドに寝そべったまま、左手を翳してみる。

カーテンの隙間から差し込む太陽の光に、ダイヤモンドが放射状に光線を散らす様子はとても素敵だった。

暫くそのまま、左手を眺める。

仕事につけていこうかな、とふと考える。誰かに見せびらかしたくて仕方がない。

浩輔からの初めてのプレゼントだということも、それがエンゲージリングだということも、嬉しくて嬉しくて、勝手に口元が緩んできてしまって困る。

気持ちが舞い上がって、何故だかふいに叫び出したくなった。

クッションをぎゅっと胸に抱き締めて、声を上げることは抑えたけれど、堪え切れずに何度も足をジタバタさせる。

こんな気持ちはきっと生まれて初めてで、どうしていいのか分からない。

朔はようやく我に返えると、サイドボードに置かれていた小さなジュエリーケースに指輪をそっと戻す。ベッドに腰掛けて大きく伸びをした。

この小さな輝きに浩輔の気持ちがいっぱい詰まっているのだと思うと、勿体なくてやっぱり誰にも見せたくない。

仕事で繊細な商品を取り扱っているのだから、当然つけていく訳にもいかないけれど。

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