欲しがりなくちびる
「おかえり、浩輔」

いつまでこうしていても埒が明かないと起きる決意をして、彼を見上げる。

「今日もお疲れさま。寝たばかり?」

浩輔がちらりとベビーベッドを見る。

「うん。何故か今日はいちにち目が爛々としてて、全然寝てくれなかった」

「そっか。じゃあ、暫くは起きないかな」

浩輔はそう言うと、口元に笑みを浮かべ、朔の膝裏を掬うと横抱きにする。

「え? ちょっ、浩輔……?」

当然のように寝室に運ばれてベッドに下ろされる。

「浩輔、ご飯は? 準備できてるよ」

「ありがと。でも先に朔を抱いてから」

「え? でも……っ」

戸惑う朔の言葉を封じるようにして、浩輔の唇が重なる。

「最近朔が足りてないから、もう我慢できそうにない。明日俺休みだし、代わりに育児も家事もやる。だから、ちょっと無理させていいか?」

強請るように見つめられては、何も言えなくなってしまう。

浩輔は結婚してから、朔に甘えるのが上手くなった。

滅多にそうしてくる訳ではないけれど、自分がどういう顔をすれば朔を唆すことができるか気付いてからは、少々性質が悪い。

けれども、時折見せる浩輔のそんな表情は可愛くて、ベッドで朔を追い詰めているときの淫猥に濡れた瞳と同様に彼女の胸も子宮もきゅんと疼かせる。

浩輔はちょっとと言ったけど、きっと、ちょっとどころじゃなくなるのは分かっている。

けれども浩輔にそうされると心も身体も満たされることを知っているから、朔は素直に頷いて浩輔の首に腕を回す。

「朔、愛してる」

子供が産まれてから、浩輔は比較的すんなりとその言葉を口にするようになった。

相手を愛おしいと思う気持ちを伝える言葉なのにどうしてお互いにあれほど躊躇っていたのか、今は分からない。

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