欲しがりなくちびる
子供の頃から朔が憧れ続けてきた、幸せな家庭。

あの頃はまだ、浩輔に対する気持ちが何なのか分からなかった。

恋を知るより先に彼とセックスをして、朔の心と体は甘く疼いた。

浩輔が触れてくる指先が特別なものだったのだと気付くまでに時間が掛かったのは、不器用な彼のせいでもあるけれど、快感にばかり囚われて何も見えなくなっていた朔も彼を傷付けていた。

幼馴染の恋は難しい。

順序を間違えたことで更に遠回りをした二人だけれど、たった一度素直になってみれば何も難しい事なんかなくて、そこにあったのはお互いを愛おしいと想う穏やかな気持ち。

甘やかに、熱し過ぎない程度の冷静さも持ち合わせた関係は、長くお互いの隣にいたからこそ築けるものなのかもしれない。

愛情と信頼。

それは子供ができたことで、浩輔との仲をより強く結び付けてくれたように思う。

夢に描いていた温かな家庭をこうして浩輔と築いている。

子供の頃、一緒に家族ごっこをした者同士。

浩輔がお父さんで、朔がお母さん。

くまのぬいぐるみが二人の子供だった。

そんなことを思い出すと今の関係をどこか不思議に思うこともあるけれど、これがきっと、二人の正しい形なのだと思う。

浩輔に何度も果てを見させられた後、二人で遅めの夕食を摂る。

食いっぷりが良い浩輔の口元が好き。

箸を作法通りに持つ綺麗な指先が好き。

今の朔は、彼のどこが好きなのかをひとつひとつ丁寧に挙げることができる。

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