欲しがりなくちびる
当時、浩輔には交際していた彼女がいたが、朔が隣の部屋で泣いていれば当たり前のように抱き締めにきてくれた。

大学進学と同時に浩輔が家を出るまでの間、二人の関係は続いた。

彼が通う芸大は実家から通えない距離ではなかったが、絵に集中したいという申出を両親は快諾した。

浩輔の部屋は、母親の再婚と同時に移り住んできてからたった一年半あまりのうちに画材道具やキャンバスで手狭になっていたし、朔の父親は初めから大人の男として彼を対等に扱っていた為、自己責任における自由を認めていた。学費については、浩輔の実の父親が出していたからというのも理由のひとつとしてあったのだろう。

大学卒業まで実家から通学していた朔は、合コンや飲み会で遅くなる時なんかに浩輔の部屋に泊まらせてもらったこともあったが、お互い就職活動が本格化し始めた頃から何となく疎遠になっていき、いつの間にかそれが当たり前となっていた。そして、それは昨日まで続いていた。

親を通して双方のの近況を知るといった状況で、次に二人が久し振りの再会を果たすのは、朔の結婚式になる予定だった。

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