欲しがりなくちびる
そういえば、浩輔が教える絵画教室が隣町にあったと、後退りして二階を見上げる。

商店街に面した窓は色とりどりのセロファンで飾りつけられていた。揺れるわかめに、赤、黄、青の魚たち。なぜか画用紙に描かれたウサギもいた。

好奇心から、朔は一人でも窮屈に感じられる狭い階段を上がっていく。突き当たって左が廊下になっていた。

そこには丸椅子が二つ置いてあり、恐らく、早めに迎えにきた保護者の為に用意されたものだろう。からりと開かれた窓から生ぬるい風が入ってきては出ていく。上部にガラスの入った引き戸から教室の様子を見ることができた。

予測通り、浩輔はやはりここで講師をしていて、学校の美術室にあるような四角い作業台に小学生くらいの生徒たちが4人ずつ座っている間を行き来しては、呼び止められる度に子供達の目線に合わせて身を屈めると何やら指示している。

朔がしばらく様子を見ていると、一人の男の子が気付いて入口の引き戸を開ける。ぎぎっと引き攣れるような嫌な音を立てて扉が開かれると、途端に懐かしい絵の具の匂いに包まれた。

「お姉さんも絵好きなの?」

人懐っこいその子供は、朔を見上げると手を引いて教室に招き入れた。

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