欲しがりなくちびる
「――朔っ?」

浩輔が驚きと同時に声を上げると、教室内には一斉に野次が飛び交う。

「えーっ? あの人、先生の彼女なの?」

「ねぇーねぇー、何歳ぃ?」

それまで大人しく静物画を描いていた子供たちは集中力の限界だったのか、次の興味の矛先を二人の関係性に定めるとやたらと解明したがる。

「うるさいなー。ただのおばさんじゃんっ」

その中で一人流されることなく机に向かっていた女の子は、朔にちらっと振り返るとふんっと鼻を鳴らす。すると、すかさず向いの男の子が、

「あー。おまえ、焼きもちやいてやんのー」とからかう。

女の子がそれをじろりと一瞥すれば、今度は男の子が顔を青くした。

その様子に思わずくすりと笑みを漏らすと、浩輔は気まずそうにこめかみを掻いて胸の前で手刀を切ると謝罪のポーズを作る。

女は10歳やそこらでもしっかり女をしているのだと、朔は苦笑する。そして、10年後はともかく、今は自分のほうが各上だと少なからず思ってしまう朔もまた女である事を実感する。

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