欲しがりなくちびる
「そういや、どうしたんだよ。こんなところまで」

二人して教室を後にすると、隣のスーパーに立ち寄る。朔がここに辿り着くことになった経緯を話すと、浩輔は笑った。

「第二候補くらい用意しとけよ。俺だったらそうする」

「だって、これがいいんだもん。そんなこと考えたこともなかった」

買ったばかりのヨーグルトが入ったレジ袋を胸の前に持ち上げて、首を横に振る。

「朔は、いつも目の前にあるものしか見えてないからな」

からかう視線を感じて頬を膨らませれば、浩輔は、はっ! と白い歯を見せて笑った。

「その歳で口唇尖がらせても、かわいくねーし」

「うっさいわね! どーせ、女の賞味期限は短いわよ。男と違ってね!」

独身アラサー女子には、年齢の話は禁物だ。軽々しく禁句を吐く浩輔に噛み付けば、なぜか浩輔は目元を和らげる。

「どーせ、とか言うなよ、らしくないな。本当のおまえは何歳になってもお姫様じゃなきゃ気が済まない女だろ。お姫様はいじけたりしないで、いつも自信で満ち溢れてるもんだよ」

だろ? と流した視線で目配せされても、どこか納得いかない。

「私ってそんなに嫌な女? これでも自分の器は分かってるつもりだけど」

長年、女をやっていれば、恋愛市場における自分の価値は分かっている。やっぱり、尖った唇は直らない。

「まぁ、そう怒んなよ。あっという間に機嫌直るほど、上手いケーキ食わせてやるから」

そう言って浩輔が連れて行ったのは、アーケードの入口で一番に客を迎える、あのスイーツ店だった。店内は未だに混雑していた為テイクアウトする。

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