欲しがりなくちびる
浩輔は、裸で横たわる朔に自分の着ていたシャツを掛けてやると、キッチンの換気扇の下で煙草を吸い始める。

微かに漂ってくる煙草の匂いに、10年前の記憶が蘇ってくる。朔はゆっくりと目を閉じた。

浩輔の抱き方はあの頃と変わらない。まるで、最後に朔を抱いたその日から時間が止まってしまったかのように。

全てを奪われるような喜びは、きっと女でなくては理解しがたいだろう。身体の一番深いところには、未だ疼くように浩輔が残した爪痕が残っている。

朔と浩輔の間には、愛の言葉はひとつも存在しない。

それなのに、昔から確かに浩輔に愛されていたように思えるのはどうしてなのだろう。

そして、浩輔は今でも確かに朔を愛している。

その愛の形が何であれ、二人はもう何年も前から、紛れもなくお互いを求め合ってきたのかもしれない。大袈裟にいえば、ソウルメイトのように。

いつの間に眠ってしまったのか、朔は自分のくしゃみで目を覚ます。シャツに包まり身震いをする彼女に、

「風邪ひくといけないから、風呂入ってこいよ」

と浩輔が声をかけてくる。

彼は先にシャワーを浴びたのか、Tシャツにスエットパンツ姿に着替えていた。

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