欲しがりなくちびる
朔が暢と同棲していたマンションを出てから一週間が経っていた。
彼は諦めたのか、朔の方から連絡がくるまで待つことにしたという内容のメールを最後に音沙汰がない。

このまま自然消滅するのを待っているという訳ではなかったが、まだ答えを出せる心境には至っていない。

不思議と暢に対して、浩輔と関係を持ったことを後ろめたいとは思わなかった。浩輔との繋がりは、下世話な話とは一線を画しているとどこかで位置付けているのは単なる不遜かもしれない。

浩輔と身体を重ねた翌日、仕事から帰宅すると納戸はきれいに片付けられていて、そこが朔の寝室になった。四畳半もない部屋はベッドと鏡台を置いただけで窮屈だったが、居候の身だと思えば悪くはない。

それにしても、この部屋が埋もれるほどのキャンバスを浩輔はいったいどこへ片付けたのだろうか。あれから、彼の寝室には足を踏み入れていないが、部屋の片隅でまた山のように積み重ねられているのかもしれない。

シャワーを浴び終え、棒になったくたくたの脹脛にむくみ取り用のシートを貼ったままの姿で麦茶を飲んでいると、浩輔が帰ってきた。

< 52 / 172 >

この作品をシェア

pagetop