欲しがりなくちびる
「お疲れ。もう帰ってたんだな」
「うん、おかえり。今日遅かったね」
浩輔は煩わしそうにネクタイを左右にずらしながら寝室へと向う。その背中を見送りながら朔は返事する。コトンと硬質な音が聞こえてくる。ドアは開けたままなので、腕時計をケースに置いたのだと分かった。
「ああ。急な接待が入ってさ」
「ふーん。当たり前だけど、浩輔もしっかり社会人してるんだ」
壁越しでやり取りしている二人は、いつもより少し声を張り上げて話している。
「ご機嫌取りも楽じゃねーよ。不味い酒飲んで、顔色窺って。俺の一生はこんなんで終わるのかって思うと、軽く絶望を覚えるよな」
「何かあった? なんだか今日の浩輔、哀愁漂ってるじゃん」
「馬鹿言うな。おまえの方こそ大丈夫なのかよ。毎日仕事終わるとその足で帰ってきてるだろ? ストレスとか溜まってんじゃねーの」
「平気平気。なんだか最近、一気に落ち付いちゃったんだよね。毎週のように飲み歩いてたのが嘘みたい」
「人んちでそんなにリラックスしてるぐらいだしな」
部屋着に着替えて戻ってきた浩輔の視線が、下へと落ちる。朔の脹脛に貼られたシートを見ている。
「だめ? だって、揉んでくれる人いないんだもん」
窺うように上目で見れば、浩輔はイヤと小さく首を振った。
「朔はさ、羽目外したりしないで、真面目に自分と向き合おうとしているのかもしれないけど。……まぁ、考えても答えが出ない時は出ないもんだしな」
浩輔は言い終わらないうちに麦茶のグラスを奪うと、ごくごくと音を鳴らして喉を潤していく。そして、まだ半分程残っているそれを朔に戻してきた。
「うん、おかえり。今日遅かったね」
浩輔は煩わしそうにネクタイを左右にずらしながら寝室へと向う。その背中を見送りながら朔は返事する。コトンと硬質な音が聞こえてくる。ドアは開けたままなので、腕時計をケースに置いたのだと分かった。
「ああ。急な接待が入ってさ」
「ふーん。当たり前だけど、浩輔もしっかり社会人してるんだ」
壁越しでやり取りしている二人は、いつもより少し声を張り上げて話している。
「ご機嫌取りも楽じゃねーよ。不味い酒飲んで、顔色窺って。俺の一生はこんなんで終わるのかって思うと、軽く絶望を覚えるよな」
「何かあった? なんだか今日の浩輔、哀愁漂ってるじゃん」
「馬鹿言うな。おまえの方こそ大丈夫なのかよ。毎日仕事終わるとその足で帰ってきてるだろ? ストレスとか溜まってんじゃねーの」
「平気平気。なんだか最近、一気に落ち付いちゃったんだよね。毎週のように飲み歩いてたのが嘘みたい」
「人んちでそんなにリラックスしてるぐらいだしな」
部屋着に着替えて戻ってきた浩輔の視線が、下へと落ちる。朔の脹脛に貼られたシートを見ている。
「だめ? だって、揉んでくれる人いないんだもん」
窺うように上目で見れば、浩輔はイヤと小さく首を振った。
「朔はさ、羽目外したりしないで、真面目に自分と向き合おうとしているのかもしれないけど。……まぁ、考えても答えが出ない時は出ないもんだしな」
浩輔は言い終わらないうちに麦茶のグラスを奪うと、ごくごくと音を鳴らして喉を潤していく。そして、まだ半分程残っているそれを朔に戻してきた。