欲しがりなくちびる
最近の浩輔は、どこかおかしかった。

お互い干渉しないというのがルールだったけれど、浩輔にしては珍しく泥酔してくる日もあれば、全くアルコールの匂いがしないのに午前様なんてこともあった。

気にしないでおこうと思っても、朔が寝室として使っている玄関脇の部屋は音が響くため、近付いてくる足音や鍵を開ける音もしっかり聞こえてしまうから、否応でも考えてしまう。

浩輔の悪いところは、泥酔していてもあまり変わらないところだ。会話は普通に成り立つし、お酒の匂いもしなければ顔も赤くなったりしない。軽く飲んだ程度かと思っていると、実はかなり酔っているということもあって、次の日になると何を話したのか覚えていなかったりもする。

酔った浩輔が話す内容は真面目なものが多く、仕事の話だったり人生論だったりを静かに語る。冷静さの中に情熱を隠し持っていて、そういう時彼の眼の奥はいつもきらりと光る。まるで、そこに真実があるとでも云わんばかりに。

「あ、帰ってたの? 今退くからちょっと待ってて」

朔はシャワーを浴びた後、バスルームの鏡に向かって乾かした髪を丁寧にブラッシングしていた。浩輔はいつからそこにいたのか、開いたままのドアの桟に寄り掛かってこちらを見ている。

一度帰宅してから出掛けたようでスーツ姿ではなかったが、いつものデニムにTシャツといったカジュアルな私服とは違い、センタープレスの利いた少し光沢のある紺地にストライプのパンツと、袖を七分丈にまで捲ったシャツ姿は、ちょっとしたパ-ティに出掛けてきた様な雰囲気だった。


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