欲しがりなくちびる
逞しい腕で揺さぶられながら、涙が零れそうなほど満ち足りた気持ちになる感覚をもうずっと忘れていた。今まで肌を重ねてきた男達を本当に愛していたのかと振り返ってみても、これほどの悦びを感じたことはあっただろうか。

単純に、嬉しいとか幸せといった気持ちを素直に感じて、それを相手に伝えたいと思う真っすぐな想い。

浩輔を愛おしいと思う気持ちが朔を覆う皮膚のひとつひとつまで変化させる。全身が悲鳴を上げるほど彼を欲しがっていて、触れられた感覚を留めようと全て細胞が繊細なまでに敏感になっている。背筋に沿うようにして肌を引っ掻かれるだけで思わず足の爪先に力を込めてしまい、目の前は涙で霞んで見えないのに、朔は確かめるように何度も浩輔を呼んだ。

真っ白な世界から呼び戻されるようにして目を覚ますと、浩輔に抱き締められる形でベッドに横たわっていた。頭上からは、規則正しい寝息が聞こえてくる。

あれからどれくらい時間が経ったのだろうか。外はまだ暗い。

朔は、浩輔を起こさないように小さく身動ぎして、テーブルライトの仄かな光に映し出される彼の顔は見上げる。穏やかな寝顔。閉じた瞼の下は女性のように長い睫毛で影になっている。

こんなにも浩輔を愛おしいと思ったのは、初めてかもしれない。

物心ついた頃から傍にいて距離が近過ぎたからこそ、こんなにも遠回りしてしまったのだろうか。そう思うと、青春時代にも感じなかった強い胸の痛みに、これまで失ってきたものの大きさを知った。

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