欲しがりなくちびる
逃げようとするには遅すぎた。

暢は朔を壁に追い詰めて両腕の自由を奪うと、息を吐く間も与えないほど荒々しいキスをしてくる。自分本位に激情に身を任せる暢の姿を、朔は今まで見たことがなかった。

背は高いけれど、どちらかといえば線の細い彼の一体どこにそんな力があったのか、片腕で朔の腰をしっかり抱き寄せ、もう片方の手で胸を鷲掴みにして頂に歯を立てる。

まるでレスリングでもしているかのような取っ組み合いをしながらも、暢は慣れた指使いで朔の身体を濡らしていく。

心とは比例しない自分の身体に朔が戸惑っていると、暢は勝ち誇ったように厭らしい笑みを浮かべた。指先からの刺激で絶え間なくいかされたあと、逃げる間もなく暢が奥深くまで侵入してくる。貫かれた甘い痺れに思わずしがみ付くと、彼は満足そうに微笑んで朔の頬を撫でた。
 
「そんな蕩けた眼で俺に抱かれている朔をあいつに見せてやりたいよ。自分でも分かるだろ? 朔が俺を掴まえて放さないんだよ」

「そんなこと……っ!」

言われなくても分かっている。快楽に貪欲な身体は朔の意志を無視して溺れきっている。だからこそ、悔しくて堪らない。朔はきゅっと下唇を噛んで暢を睨みつける。けれども、暢に言われたことは自覚している。こんなにも快感に潤んだ瞳でいくら抗議しても何の効力もないだろう。これが女の性だなんて思いたくはない。

「違うとは言えないだろ? おまえの身体は正直なんだよ。俺でこんなに乱れて感じて、本当にあの男のことを想っているとでも言うつもりか?」

暢の言葉は、ぐさりと朔の胸に突き刺さる。まるでこれまでの自分に復讐されているような気さえして、ぐるぐると忌々しさが胸中を駆け巡る。

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