欲しがりなくちびる
シャワーを浴び終え、重い身体を引き摺りながらリビングへ行くと、浩輔は電話の最中だった。彼は朔に気付くと携帯の向こうの相手と話しながら手招きをしてソファに座らせる。

やがて通話が終わると、チーズがたっぷり入ったリゾットと温野菜を朔の前に運んできてくれる。

「久し振り。スープミルファンティのリゾットだ」

やわらかな湯気を立てている陶器の白いボウルに、ささくれ立っていた心がほっと落ち付きを取り戻していく。

「だろ? 朔、好きだったもんな。まだあるからいっぱい食えよ」

「ありがと! あとね、パンケーキも食べたい。はちみつとバターがたっぷりかかったやつ」

本当は、こんな我儘を言いたい訳じゃない。今はただ浩輔に甘えたくて、受け入れてほしくて、全部食べられるかも分からないのにそんなお願いをしてみる。

「はいはい。お姫様」

けれども浩輔は嫌な顔ひとつせず、通りすがりに朔の髪をくしゃりと撫でてキッチンへ戻っていく。

男に頭を撫でられるのは好きではなかったが、浩輔には昔からそれも許せた。

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