欲しがりなくちびる
受け取った招待状を裏表に返しながらちらりと店内を振り返って見れば、先に着いていた相手の男性は相馬にやたらと頭を下げていた。改めて名刺に視線を落とせば、個展のタイトルには同じ名前が記してあった。
その翌週、シフト休みで買い物に出掛けた帰りにふと思い出して、朔はギャラリーに立ち寄ることにした。
暢と付き合っていた頃はよく美術館巡りをしたけれど、これといって絵に興味がある訳でもなかった。
ただ、自分では思いも由らない独創的なものや、誰の目にも美しいと映るものを見学するのは好きだった。子供の頃から、浩輔の隣で絵を描いているのを見ていたからか、自分の生活において全く遠い存在ではなかったのも確かだ。
ビルの一階にあるギャラリーの入口は生花で飾られ、洋蘭の香りが周囲に立ち込めている。
明日が最終日のせいか客は疎らだったが、奥のテーブル席では黒のパンツスーツの女性が、やや小太りの中年男性相手に電卓を叩いては見せていた。
飾られた絵のほとんどは抽象画で、そこにぽつんぽつんと風景画も交ざっている。
朔はそれまで知らなかったのだが、相馬卓巳は日本画で有名な画家だった。彼が特集されている雑誌や画集なんかも置かれていて、それを捲りながら何やら話し込んでいる若い客の姿もあった。
一通り見て回りギャラリーを出たところで、聞き覚えのあるしわがれた低い声が朔を呼び止める。
その翌週、シフト休みで買い物に出掛けた帰りにふと思い出して、朔はギャラリーに立ち寄ることにした。
暢と付き合っていた頃はよく美術館巡りをしたけれど、これといって絵に興味がある訳でもなかった。
ただ、自分では思いも由らない独創的なものや、誰の目にも美しいと映るものを見学するのは好きだった。子供の頃から、浩輔の隣で絵を描いているのを見ていたからか、自分の生活において全く遠い存在ではなかったのも確かだ。
ビルの一階にあるギャラリーの入口は生花で飾られ、洋蘭の香りが周囲に立ち込めている。
明日が最終日のせいか客は疎らだったが、奥のテーブル席では黒のパンツスーツの女性が、やや小太りの中年男性相手に電卓を叩いては見せていた。
飾られた絵のほとんどは抽象画で、そこにぽつんぽつんと風景画も交ざっている。
朔はそれまで知らなかったのだが、相馬卓巳は日本画で有名な画家だった。彼が特集されている雑誌や画集なんかも置かれていて、それを捲りながら何やら話し込んでいる若い客の姿もあった。
一通り見て回りギャラリーを出たところで、聞き覚えのあるしわがれた低い声が朔を呼び止める。