欲しがりなくちびる
「どうして欲しい?」

余裕の顔で覗き込む浩輔は憎らしいほどいい男で、朔の僅かに残ったささやかなプライドが、絶対に屈服はしないのと、その言葉だけは聞かせまいと意地を張らせる。

「俺はおまえが欲しいよ」

なのに、浩輔から心の内までを見透かすような澄んだ瞳に射られて、朔の左眼から零れた一筋の涙が頬を伝わっていく。

「……綺麗だ、朔」

そっと髪を優しく撫でる浩輔の手のひらが気持ちいい。光の加減なのか、彼の瞳も潤んでいるように見える。その瞬間、どうしてなのか、浩輔の心に初めて触れることができた気がした。

セックスの後はいつも一本だけ煙草を吸ってすぐに眠りに就く浩輔は、その夜は珍しく煙草も吸わずに考え事をしているようだった。朔を腕枕している方の指先に弄ぶように彼女の髪を絡めては解いて、ということを繰り返している。

「……俺さ。中2の夏に転校しただろ。その後も何人かの地元の仲間と連絡取り合ってたんだよ。朔が変わったって悪く言う奴もいたけれど、親の再婚で3年振りに会ったおまえは全然そんなんじゃなくて。……俺の目には、寧ろおまえが純粋に何かを求めてもがいているように見えた。

 その時、初めて後悔したよ。まだ恋愛も知らないうちに、おまえの身体を奪ったこと。彼女持ちの男に見込みのない恋をして毎晩のように泣き腫らしていたときも、何度抱いても一度だって俺の名前を呼び間違えなかった。そういうところも堪らなくいじらしくて、俺の胸はいつも掻き乱されてた」

髪を絡めていた指先をするりと解いた浩輔は腕枕を外して身体を起こすと、その両腕で檻を作って朔を閉じ込める。

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