【流れ修正しつつ更新】流れる華は雪のごとく
「あー…」


疾風が困ったように声を漏らす。


「ん?」


そう返した露李に、理津が横からおもむろに抱きつく。

あまりに自然すぎていつもの反撃も忘れていた。


「俺達は今、学校にいねぇことになってんだよ」


「いねぇことになってるって…休学状態ってこと?」


露李の最もな問いに、疾風と理津は柔らかく笑った。

その純粋さが、嬉しかった。


「違ぇよ。存在が消えてるってこと」


理津の腕の中でこてんと首を傾げる。


「そんなことって…」


出来るのだろうか。


「アリアリ。存在っつうか、記憶だな」


理津は疾風から飛んでくる睨みに応戦しながら的確に答える。


記憶と言われて初めてピンと来た。


「私たちに関する記憶全部、消したってこと?」


「当たりだ。教師もクラスメイトも、誰一人俺たちの事を知らない」


理津を睨むのを諦め、疾風も溜め息混じりに説明する。


「敵はどんな手段を使ってくるか分からない。分かりやすい弱みだが、あいつらが俺たちを知らないとなれば、少しでも被害を受ける確率を減らせるからな」


「まっ、それも無理矢理連れてきて囮にされたら終わりだけどな。昔っからマズいことがあると知恩家がどうにかしてたし、俺達にはよくあることだぜ」


何とはなしに言うと、ふと俯く彼女の横顔。

どうしたのかと両端の二人は顔を見合わせる。


「どうかしたのか」


「誰が私が?」


束の間の沈黙。


「…や、俺らが聞いてんだけどな?」


一旦、露李から離れ、理津が苦笑いした。


「私は、どうもしない」


紫の火に手をかざし、その色を見つめ迷いながら言葉を紡ぐ。


「じゃあ何で」


「何かあるなら、言ってくれ」


露李が迷っているのも珍しいので、余計に分からない。
二人して露李の顔を覗き込む。


「でも──二人が、寂しそうな顔してたから」


思わず目を見開いた。

自分でも気がついていなかったのだ。


「私は、里の人に忘れられたこととかないから。忘れて欲しいとさえ思ってたくらいで」


だから、と詰まる露李。


「ごめん、本当の意味では共感できない」


「分からなくていい。分かって欲しくもねぇよ」


理津が間髪入れずに言った。

忘れられることが、最初は辛かった。

狭い村、知らない人は居ないはずなのに、修行中に会った友達に誰だろうという顔をされるのは辛かった。


今では仕方がないと思えていたが。


「でも、皆に忘れられるって考えたらすごい悲しかった」


うううー、と泣きそうになりながら唸っている。


「動物かお前は」


「違うわ」


「えっ」


「そこに驚くの?」


隣で吹き出す理津を睨み、元凶の疾風を睨んだ。













< 209 / 636 >

この作品をシェア

pagetop