【流れ修正しつつ更新】流れる華は雪のごとく
***


「…秋雨、私の記憶を見せたのか」


静かな有明の声で、露李はハッと我に返った。

その言葉で今の情景が“記憶”なのだと分かる。


「ならこれで分かっただろう、私と霧氷の関係が」


「…ええ」


それだけではない。

有明の感情も同じように感じた。

怪我をしたわけでもないのに、痛いな、と胸を押さえる。


「露李姫、お前が生まれた瞬間だよ。私は、花姫と同じ力を持った魂を感じた。今では鬼という身分を隠し生きている身だ─強い者はすぐに分かる」


露李の瞳をしっかりと見つめ、有明は苦々しく告げた。


「私は霧氷様に幸せになって欲しかった。それなのに、花姫は容赦なくあの方を殺した。これが…恨まずにいられるか」


答えられなかった。

有明のしたことも分かっているつもりだ。

固く拳を握る。

だけど──私は恨まずにいられる?

無理だ、と思ってしまった。


「でも分かったんだ、あの中に霧氷様がいると。なら、解放すれば良い。だって──霧氷様が、死ぬわけがない」


死ぬはずないんだ、と有明は繰り返す。


「あの人が、むやみに『世界』を業火で炙り、消すなんてするはずない。理由があるはずだ…必ず。死ぬわけない。死ぬわけないんだ、あいつはまだっ…死んでない!」


駄々をこねるように叫んだ有明の目から涙が溢れた。

次から次へと流れ落ちる涙が、地面を濡らしてゆく。

有明の中の時間はまだ止まったままなのだ。

時が過ぎ、新しい時代が来ても彼女の時間はまだ、“彼がいた世界”のまま進むことはない。


「その証拠に、花霞は花姫の魂を求めている!風花姫の、あの女の!だから今まで満ち足りることは無かったのだ、私はお前を捧げ、解放する…そうすれば、そうすれば──また、あの人に会えるから」


自分を好きな霧氷様じゃなくて良い。

ただ、


「私の前で笑っていて欲しかった、だけなのに」


こんなことになるなら、離さなければ良かった。

あの笑顔がただ、見たいだけだった。


「死んでくれ、死んでくれよ風花姫…!」


風が唸り、地が轟いた。

敷き詰められた石が吹き飛び、雨のように露李の上に降り注ぐ。

傍に立っていた宵菊が木の幹に打ち付けられるのを見た。

防ぐ間もなく、叫びが呪の鎖となって露李に巻き付いた。

身体の内側が針に刺されたような痛みに襲われる。

全身から力が抜けそうだ。

声を発することも出来ずに地面に膝をつく。

千年の間培ってきた恨みや悲しみが全て込められているようだった。


「間違っていても良い、私の願いは霧氷様の幸せだ!!無情なあの女への復讐を遂げるのだ!!」


狂ったように涙を流しながら笑う有明。


「くっ…あああ!!」


神経を鷲掴みにされているようだ。


「露李ーーっ!!」


結と水無月が近寄ろうとするも、結界を張ったのか入れない。

ただ露李が苦しむ姿を見ていることしかできない。


滲んだ視界が、結が何かを叫んでいるのをとらえた。


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