シャッターの向こう側。
「お前ねぇ……」

「うぎゅ……っ!!」

 襟首を持たれて、また窒息しそうになった。

「駅はあっち、そっちは海」

 ズルズル引きずられそうになりながら、辛うじて後ろ向きに歩く。

「じ、自分で歩けます」

「あ、そ」

 手を離されて、宇津木さんの後を歩く。

「お前、相当な方向音痴だろ?」

「聞かれても困ります」

 今までそんな事を言われた覚えもないし、考え事をしてただけだって言うの!

 また黙って歩きながら、青っぽい蛍光灯が見える小さな駅に着いた。

 お互いに切符を買って改札をくぐり、一つしかないホームに降り立つと、ちょうど電車が到着した所だった。

「あ。ラッキーですね」

「ちゃんと計算してたからな」

 ……時刻表でも見てた訳ですか?

「宇津木さんて虎視眈々としてますよね」

 ガラガラの電車に乗り、クッションの余り効いていない椅子に座ると、イキナリデコピンをくらった。

「いた……っ!!」

「そういうのは、虎視眈々とは言わない。用意周到と言う」

 どっちだっていいよ!

 涙目になりながら宇津木さんを睨むと、隣に座りながら腕を組んでいた。

「どうしてすぐ暴力に訴えるんですか」

「……さあ?」

 さぁ?

 ってあんた、自覚はあるのかっ!?

 人は思わずって時があるけど、明らかに解ってる口ぶりだよね!?

 こんにゃろう……

「ところで質問だが」

 なんだよ。

「どうして祖父さんの遺産品を使わないんだ?」

 祖父さんの遺産?

「カメラ」

「祖父ちゃんは死んでませんからっ!!」

 まだ現役で、ピンシャン生きてるわよ!

「それはどうでもいいが」

「よくないよくない! 勝手にうちの祖父ちゃん殺さないでください!」

「……それで、何で?」

 首を傾げられて、唇を尖らせる。

「何でって……何となく」

 今回は宇津木さんだけじゃないし、この企画に参加する他のスタッフも多いし、デジカメの方がいいかな~と……

 なんて考えていたら、冷たい視線が返って来た。
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