シャッターの向こう側。
「余計な事に気を使うなら、もっと他の事に気を使え」

「はぁ?」

「俺としては、どうでもいい画像を撮られるより、ちゃんとした画像が欲しい」

「なんですか薮から棒に」

「……どう見ても集中力が違う」

 言われて、目を丸くした。

「デジタル媒体を見てるお前より、あのカメラを構えているお前の方が生き生きしてるし、出来上がりにも歴然とした差が出ている」

 じっと宇津木さんを見上げると、静かな輝きの残った眼が、すっと細めらて影になる。

「フォトコンの作品……去年のよりも今年の出来が悪いってのは意味が不明だが、今年のは特にもどかしい印象を受けた」


 ……え?


「……今年のは、提示されなかったはずですが」

 二次審査まで通ったら会場を借り切って掲示されるけど、今年はそこまで行かなかった。

「荒木さんには見せただろうが」

 言われて瞬きをする。

 確かに、今年のは荒木さんに見せてと言われたから、一日だけ貸し出した覚えがある。

 それを見たんだろうか?


「前回の出張に同行して、やっぱりな……と思った」

 淡々とした呟きに、いつの間にか俯いていた顔を上げた。

「お前は自由にさせて置いた方が、いいものを撮ってくる」

「……………」

「だから、今回も指示をするつもりはないが……カメラは変えろ。癪に触るが他部署との連携は俺が取ってやる」

 ふっと宇津木さんは笑って、キュッと一瞬だけ鼻をつままれた。

「他のスタッフに何を言われようが、他部署の馬鹿に何を言われようが、お前は気にするな。責任は俺が取ってやる」


 責任を取ってやる……って。


 ……今回も、私の自由でいいんですか?


 じっと宇津木さんを眺めていたら、急に視線が反らされた。


「泣く奴があるか」


 その言葉に瞬きする。

 ポタリと頬を掠めて雫が落ちた。


 あれ……?


 あれれ?


 なんで私、泣いちゃってるの?


「少しは反抗しろよな」

 ぶつぶつ言う宇津木さんに、思わず笑った。


 コツンと軽く頭を小突かれて、ますます笑う。


 なんだか、とても温かい気持ちだった。















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