シャッターの向こう側。
 土曜の朝はとてつもなく遅い。

 それは昨日の夜中、ずーっと歩道橋の上に突っ立って、ぼんやりしていたからでもあるんだけれど……


 夜の闇に浮かび上がるテールランプ。


 スラッと並んだ赤い光の羅列。


 色んな形があって、いろんな種類があって、光の具合も微妙に違う。


 そんな風景も結構楽しい。


 それから車が一台も通らない交差点だとか、消灯されたお店の提灯だとか……


 真夜中にしか見れないものもたくさんある。


 それを眺めていたわけなんだけど……


 今、目の前に天使がいるよ……


 くりんくりんの緩いウェーヴの髪。

 透き通るような白い肌。

 着ているモノは、なぜかジーパンにコットンシャツだけど。

 その可愛いというか妖艶というか気品と言うか……



 まさに天使だね! ハニー!!



「……雪ちゃん。何故そんな遠い眼をしているの?」

「あ。天使が日本語話してる……」

「どこまで寝ぼけてるんだコイツは」

「いや、それをいっちゃったら……」


 ……ん?


 聞き覚えのある……というかありすぎる淡々とした低い声と、ひそかな忍び笑いが天使の後ろからする。


「雪ちゃん。ネボスケさんは可愛いけど、しっかりして!!」


 え?

 何が?

 ゆさゆさと揺さぶられて、天使が冴子さんで後ろの二人は坂口さんに宇津木さんと判明した。


「え? てか、何ですか? 突然人の家の前に」


 私、何かした?

 金曜日に、宇津木さんに頼まれたマンションの写真は渡してあるし、それでOKを貰ってるし。

 いやいやいや……

 仕事の話なら、ここに坂口さんや冴子さんがいるのはあまりにも意味が不明だよね?

「突撃・隣の晩ごは……」

「今は朝の8時だが」

 いや、ちょっとボケただけなんですが。

 真面目に返されるとツライっす。


「おはよ~ございます」


 とりあえず元気に挨拶すると、困った視線が二つと、シラけた視線が一つ。


「…………」



 うわぁぁあん。



 半泣きになりがら、ドアを叩きつけるようにして閉めた。
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