シャッターの向こう側。
 無言でベシッと叩かれた。

「あんたねぇ。感覚でってのは簡単な様で難しいのよ」

 いや、よく解らないけど。

 叩かれた頭をさすりつつ、ビールを飲んだ。

「……で、仕事は順調?」

 え?

 イキナリ仕事?

「うん。最近はとても自由にさせてもらってるし、思う通り撮らせてくれる」

「お。いいじゃない。あんたいっつも眉間に皺寄せて話してたもんね」

「私?」

「うん。こうやっていつも三本くらい皺が寄っていてね」

 佐和子は必要以上に難しい哲学者みたいな顔をした。

「や。ちょっとウケる」

「ウケるなっ!」

 叩かれそうになった時、佐和子のスマホが鳴った。


 重厚なオルガンの音楽。


 てか、オ○ラ座の怪人?

 妙に緊張した佐和子が片手を上げて、携帯の受信ボタンを押す。

「もしもし……」

 あら。

 聞かないふり、聞かないふり。

 何やら青くなったり赤くなったりしている佐和子を眺めつつ、おつまみのキムチをぱくつく。

 うん。

 辛いけど美味しい。


「じゃ、話せばいいじゃないですかっ!!」

「へっ?」

 イキナリ佐和子が私に携帯を押し付け、立ち上がるとトイレの方に走り去って行った。



 ぇえ~?

 何……出ろって事?

『もしもし? 加倉井?』

 聞こえてくる低い声にスマホを見た。

「あの……もしもし?」

『え。君、誰?』

 私が聞きたいですが。

『加倉井さんは?』

「佐和子なら、トイレに駆け込みました」

 やや落ちる沈黙。

 それから、小さな咳払いが聞こえた。

『もしかして神崎さん……かな?』

「ぇえ!? 何で解るんですかっ!!」

『加倉井さんの友達で、そんな事を言う友達が一人しか思い付かなかったから』

「はぁ」

『ええと。有野ですけど。彼女は今日は酔ってる?』

 ああ、佐和子のとこの……

「まだ酔ってませんよ」

『まだ……って事は、飲んでる訳なんだ』

 まぁ、軽く烏龍ハイを。

『僕も参加していい?』

 え。

 トイレに消えた佐和子の方を見た。


 うーん。
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