シャッターの向こう側。

ウェブデザイン……もしくは勇者

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 ホテルに戻ると、大きな荷物を持った見知った顔が近付いてきた。

「よぉ!! お二人さん。今日の調子はどうだ?」

 そう言って、軽く手を挙げるのはウェブデザイナーの坂口さん。

 組んだことはないけど、仕事はきっちりこなすし、面白い宴会会長としても有名だった。

 でも……何で坂口さんがここにいるんだろう?

 ふと顔を上げると、渋面の宇津木さんの表情が見える。


「R社のサイトはもう仕上がったのか?」

「そりゃもちろん。T社のサイトは赤城に任せてきてあるし、交渉はやっこさんがするだろう」

 そう言って、坂口さんは私を見た。

「珍しく宇津木が女の子と組んだって聞いたけど……君だったか」

 ……へ?

「私……ですけど」

 私、別に有名人じゃない。

 どちらかと言うと、ひっそりこっそり生きてきたと思うんだけど……

「うんうん。有名だよね。社員旅行で行方不明になったフォトグラファーって」

 ニコニコ言われて、ぐっと唇を引き締めた。

 去年の社員旅行。

 A市の温泉旅館に1泊したんだけど、私は見事に行方不明扱いされた。

 ちょっとお土産物屋さんを見に行って、ちょっと近道したつもりが、逆の方向に向かっていたというだけなんだけど。

 あの日はスマホも充電が切れてしまっていたし、雨は降ってくるしで散々だった。

 まぁ……さすがに4時間かかって宿泊先のホテルに戻った時には、宇津木さんに殴られたっけ。


 この人、殴り癖でもあるんだろうか。


 なんて、考えていたら。


 ぺしっと、軽く頭を叩かれた。

「……私、何かしましたか?」

「打ち合わせするから、荷物置いて降りて来い。昨日のカフェにいるから」

 宇津木さんはそう言って、スタスタとロビーのカフェにと歩いて行く。


 だから、人の頭をポカスカ叩くんじゃないわよ!

 睨んでいたら、横から柔らかな声がかかった。

「じゃ、待ってるから。神崎さん」

「あ。はい」

 坂口さんの笑顔に見送られ、エレベーターに乗り込む。

 10階のボタンを押すと、そのままエレベーターの壁にもたれ掛かった。
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