シャッターの向こう側。
 勝手に坂口さんの目の前のソファーに座り、荷物の中から写真の封筒を取り出す。

「うわぁ。また随分と持ってきたね」

 分厚い封筒に坂口さんは目を丸くした。

「はい。どうしても今日中に結果が見てみたくて」

 どんな風に出来てるか楽しみ。

「自信があるんだね?」

「まぁまぁですか」

 ひょいと背後から手が伸びて来て、封筒を取り上げられた。

 ……まぁ、いいけど。

 振り返ると宇津木さんはバーカウンターのスツールに座り、早くも中身を取り出していた。

「……こっちは坂口さん用です」

 荷物の中から同じ封筒を取り出して、坂口さんに渡す。

「あ、ちゃんと一組つづにしてきたんだ」

「その方が効率的じゃないですか」

 いい歳の男が顔を寄せ合って、一つの写真を覗いてる姿なんてあまり見たくない。

 ……それはそれで奇妙極まりないけど。


「あぁ。自信満々なだけはあるね」

 パラパラ写真を眺めていた坂口さんの言葉に、にんまりと笑った。

 坂口さんてたまに解らないけど、かなり良いことを言ってくれたりするからありがたい。


 やっぱりね~。


 人間、褒められるのは気分がいいものだし!

「あまり褒めると、図に乗るぞ」

 宇津木さんは相変わらずだけど。

 バーの方を振り返り睨み付けると、宇津木さんは早くも写真を二つの山に分けていた。

「私、マゾじゃありませんから」

「そう?」

 涼しい顔でなんなんだ、この人は!

 気を取り直して、荷物を整理し始めた。


 障らぬ神に祟り無しって言うけど、障らぬ宇津木に小言は少ない。

 ない訳じゃないところが痛いところ。


「……夜のパレードも撮って来たんだ」

 坂口さんの言葉に、ふと顔を上げる。

「ええ。今日は回れる所をまわってきた感じですね。自転車が欲しいな……と、少し思いました」

「自動車でこの中を移動するのは禁止だからね」

「だからこそ、あってもいいと思うですけど」

「でも、自転車も軽車輌に入るんじゃないかな? 子供でも乗るから知ってる人も少ないけど、標識のないところは歩道じゃなくて道路を走るのがルールなんだよ?」

「そう言われれば、数年前に自転車に撥ねられて、怪我を負った方のニュースがやってましたねぇ」
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