くるまのなかで

「自分はどうなんですか。ここ最近、まともに家に帰れてないですよね。明日からの連休、チーフこそ寝て終わっちゃうんじゃないですか?」

ここ最近ずっと、彼は私より先に出勤しているのに、私より遅くに帰ることが多かった。

新事業が立ち上がって、無事に軌道に乗るまで、おそらくこれからも今のような生活が続くだろう。

それなのに、相変わらず私のことを気にかけてくれている。

もう38歳。若くはない。体は平気なのだろうか。

「お前と一緒にすんな。俺は明日から三日間、3人の美女と楽しいデートの約束がある」

……心配して損した。

浮気はしないんじゃなかったのかよ。

これだからイケメンってやつは信用できん。

アラフォーのくせに3人って、欲張り過ぎでしょ。

「そのだらしない下半身、さっさと枯れて萎れたらいいのに」

私が今日最高に低い声でツッコむと、枕木チーフは不思議そうに首を傾げた。

「バカか。俺はもうかれこれ20年、ずっと嫁一筋だ」

……ん?

「よ、嫁?」

「ああ。嫁。妻。カミさん」

「チーフ、結婚してるんですか?」

「あれ、知らなかった?」

「初耳ですよ!」

興味もなかったしね!

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