くるまのなかで
しょうもないやりとり。
ムカつくけど、私はいつもこの男とのバカみたいな茶番に救われている。
最近では仕事どころか、プライベートのことでまで……。
自分が情けなくて、ため息が出た。
「私はもう、結婚なんてしなくていいです」
「その年で諦めるのか」
「諦めるっていうか、想像できなくなりました。誰か男の人と一緒に暮らすとか、子供を産んで育てるとか」
奏太は、私と一緒じゃない未来なんて考えられないと言ってくれた。
だけど私は、こうも簡単に奏太のいない未来を想像できる。
「だからもう、結婚なんてしなくていい。いつかまた、したくなる日までは」
本当にそんな日が来るかは、わからないけれど。
枕木チーフが困ったように眉を寄せる。
憐れみの気持ちなのか何なのか、私にはよくわからない。
「いいんじゃね、それで」
チーフはそう言って、歩き出した。
「ちょうどいい。お前は一生、うちで馬車馬のように働いてろ」
ポン、と私の肩に手を置き、「じゃあな、お疲れ」とロッカールームへ入って行く。
静かになった深夜の自社ビル。
「馬車馬って、これ以上仕事増えるのは困るんですけど」
私の恨み言は、誰にも届かずに中和された。