くるまのなかで
炎天下で照り返しも強い細道をひとりで歩く。
とにかく暑い。
自分が作っている短い影が濃い。
肌を掠めている空気も、呼吸のために肺へ入れる空気も、自分から出て行く空気も、全てがジメジメして不快だ。
やる気満々の太陽にギラギラ照らされている墓石の間を歩き続ける。
なかなか目的の場所にはたどり着かない。
大体の位置は把握しているつもりだったが、よりによってろくな影もない墓地で迷ってしまったらしい。
2リットルのペットボトル2本とその他諸々を抱えたまま、さまようこと約20分。
ようやく小林家の墓を発見した私は、まずはじめに自分が持ってきた水をガブガブ飲んで石碑とその周辺に水をかけた。
気化熱のおかげで、ほんの気持ち程度涼しくなった。
「お母さん、久しぶり。こんなとこにいて、暑くない?」
返事は返ってこない。
だけど私は気にせず母に語りかけながら、枯れた花立の花を取り替える。
「聞いてよ。私、奏太と再会したんだよ。超偶然、奏太の職場の前で車が壊れて、危うく今頃そこに入るとこだったの」
碑石に水をかけ、雑巾で軽く拭う。
ビシャビシャ水が跳ねて、あたりの空気がまた少し涼しくなる。
「でさー、しばらくしてまた付き合うことになったんだけど、あいつ、由美先輩と暮らしてたの。由美先輩の息子も一緒に。ありえなくない?」