午前0時の恋人契約



「はい、ファインドラッグ広報企画部です」

『……あぁ、もしもし。岬くんか』

「はい?岬ですけど」



受話器を取れば、それは俺宛の電話らしい。

聞こえてくるのは、低い中年くらいの男の声。どこかで聞いた気がする、けど誰だ……?



『俺だ、市原すみれの父だ』

「すっ……!!?」



す、すみれの!!?

そういえばこんな声だった!!

名乗られようやく思い出した声の主に、サーッと血の気が引く。動揺を体で表すようにガタッと立ち上がる俺に、後からやってきた社員たちは何事かとこちらを見た。



「お、お久しぶりです……どうされたんですか、会社に電話なんて」

『すみれには内緒で近くまで来たものでな。ちょっと出てこれないか?』

「は、はぁ……」



いきなりすぎるだろ……!

けれど断れるわけもなく、俺はネクタイとジャケットをピッと正し急いで下へと降りた。



ビルを出てすぐのところに立っていたのは、先日食事をした相手……白髪交じりの中年男性、すみれの父親だ。

明るい日の下で見れば、その灰色のスーツは見るからに高級そうな質感をしており、それを綺麗に着こなす振る舞いから育ちがいいのだろうことは感じ取れる。すみれの品の良さも納得出来る。



「おぉ、岬くん。悪いな、忙しい時間に」

「いえ、まだ仕事前ですし大丈夫ですよ」



小さくお辞儀をした俺に、すみれの父親はははと笑う。


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