午前0時の恋人契約



「あれからどうだ?すみれとは」

「あ……はい。えーと、……お付き合い、させて頂いてます」



さ、さすがに恋人の親の前で交際宣言をするのは緊張する……!

つーか、俺に聞かないでくれよ!娘に聞けよ!

いや、娘から『彼氏が出来た』と聞く方がダメージは深そうだが……これはこれで、俺のほうが苦しい。



バクバクとする心臓を顔に表さぬように答えた俺に、その顔はおかしそうに笑った。



「はは、すみれの勢いに流されたか?」

「いえ。……ちゃんと、想ってます。彼女のことが大切だから、付き合ってます」



それは、気遣いとか同情とか、流れとか、そんな適当なものではない。想いが、ここにあるから。



「……なら、よかった」



その答えに、見せたのは柔らかな微笑み。



「すみれは母親があれだったからトラウマもあるだろうし、父親の俺も仕事ばかりで満足に構えなかったからな……気付けば、いつも人目を気にしているような子供に育ってしまった。父親失格だ」



親自身も、すみれの性格と原因に気付いていたのだろう。

けれど、家族という近い存在と、自分のせいという負い目もあり、どうにも出来なかったのだと思う。

そんな自分の子供の変化を見たその目は、穏やかで優しい。



「だからこそ、この前自分の気持ちをはっきりと言ってくれたことが嬉しかった。それはきっと、君がいてくれたからなんだろうな」



俺の、おかげ?

いや、きっとそれだけじゃないさ。



< 172 / 175 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop